FRP製苛性ソーダ貯槽の天板部劣化の盲点【FRPエンジニアによるコラム】より
ガラス繊維とビニルエステルを組み合わせたFRPは、耐腐食性が高いため強酸、強塩基等の薬液貯槽の構造材として用いられることがあります。
最近実施したFRP製苛性ソーダ貯槽の劣化診断で新たな知見が得られたため、
コラムとしてご紹介したいと思います。
苛性ソーダは揮発性が高いとは言えない
苛性ソーダは揮発性ではないという理解でいました。
調べてみると例えば濃度40wt%の苛性ソーダの蒸気圧は、20℃でおよそ0.47kPa(3.5mmHg)でした。
出展:カセイソーダの物性図表
これに対し、純水の飽和水蒸気圧は1.92kPa(17℃)ですので、カセイソーダは水より揮発しにくいことになります。
出展:理科年表2023年(丸善)
以上のことから、蒸発はするものの揮発性が高いとは言えないとの理解でした。ただこの蒸気圧であっても、苛性ソーダを保管するFRP槽には影響があるようです。
苛性ソーダの貯槽天板部に劣化が認められた
ガラス繊維は水酸化ナトリウムと反応して水に可溶なケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)になるため、内壁層は有機繊維を強化繊維とすることが定石です。
しかしながら冒頭触れたFRP製苛性ソーダ貯槽について、苛性ソーダに接液していない天板部を確認したところ、そのFRP貯槽の内壁層に有機繊維を用いていなかったこともあり、補強部の脱落など、顕著な劣化が見られました。
さらに内壁を触ったところ、水酸化ナトリウムと推測される白い固形物の存在を確認しました。苛性ソーダであっても、接液面だけでなく天板部の劣化が進行したのは盲点だったといえます。
蒸発と液化を繰り返しながら水酸化ナトリウムが濃縮された可能性
天板部に固形の水酸化ナトリウムが存在した理由について、苛性ソーダが貯槽内で蒸発と液化を繰り返しながら水酸化ナトリウムが濃縮した可能性を考えています。
例えば夏の高温時期は蒸気圧が高まり、FRP製苛性ソーダ貯槽内で蒸発が起こり、その蒸気は天板部に到達します。
しかし、それが夜になり、または季節が移るなどして外気温が下がると、蒸発した苛性ソーダは内壁面で液化します。
ここで再度外気温が高まれば蒸発が起こりますが、天板部で液化したものすべてが水酸化ナトリウム水蒸気として蒸発するとは限りません。水酸化ナトリウムの一部が内壁面に残る可能性もあります。結果として、そこには固体の水酸化ナトリウムが析出するというイメージです。
この予測が正しいかは不明ですが、天板部に固体の水酸化ナトリウムが析出した事実は重いと思います。
FRP製苛性ソーダ貯槽の劣化診断では天板部への留意が必須
FRP製の槽で薬液を保管するものを劣化診断する際、その薬液が揮発性のもの例えば塩酸などの場合、天板部に注意することを念頭に補修や改修工事を実施します。この辺りは当社のFRP製塩酸貯蔵タンクの改修/補修のページでも述べています。
しかし今回得られた知見により、例えば槽内で保管する薬液が揮発性ではなくとも、FRP製貯槽の天板部で劣化が進行する恐れがあることが分かりました。
よって、FRP製貯槽内の薬液の揮発性の高低によらず、天板部の劣化診断を念入りに行うことについて、診断業務工程の見直しを行う予定です。
引き続きこのような現地での知見の蓄積を通じ、当社の改修/補修事業に展開してまいります。
FRP製の槽やタンクの改修/補修に関するお問い合わせはこちらまでお願いいたします。