FRP業界に迫る特別有機溶剤スチレンへの対応
はじめに
強化繊維にガラス繊維を使用するGFRP(Glass Fiber Reinforced Plastics:ガラス繊維強化プラスチック)は、熱硬化性のマトリックス樹脂として不飽和ポリエステルやビニルエステルを用いることが一般的です。
これらの樹脂には粘度調整等を目的に希釈溶剤としてスチレンが使われることが多い一方、これ自身が特別有機溶剤として規定されていることはGFRPを取り扱う業界であまり知られていないのが現状です。当社も本件について知見が無かった一社でした。
しかし立ち入り調査がきっかけとなって特定化学物質というものについて向き合い、様々なことがわかりました。
この経験がGFRPを取り扱う他社にとって一つの気づきとなる可能性を考え、記事として公開することにしました。
きっかけは解体工事業登録に伴って実施された労働基準監督署による立ち入り調査
当社が特別有機溶剤という単語と向き合うきっかけは労働基準監督署による立ち入り調査でした。
当社はGFRPの成形加工を主事業として展開していますが、昨今のSDG’sをはじめとした環境意識の高まりを受け、GFRPの廃棄物処理事業 を展開しています。当該事業推進においては複数素材で構成されることの多いGFRPを分別する必要もある等の理由から、当社は解体工事業登録をしています。本事業登録を受けていたことから石綿事前調査結果報告システムに当社の企業情報が登録されており、その結果として労働基準監督署からの立ち入り調査を受けることになりました。
GFRP成形加工を生業とする一方、解体工事業登録をしていたという偶然が特別有機溶剤を認識するきっかけになったとも言えます。
立ち入り調査中に工場でスチレン使用と対応の不備に対する指摘あり
労働基準監督署の方による立ち入り調査で、当社工場で使用するGFRPマトリックス樹脂にスチレンが含有されていることについて確認が行われました。そこで、スチレンは特別有機溶剤の一種であり、必要な対応が複数あることがわかりました。
厚生労働省の情報によりますと、特別有機溶剤には大きく分けて以下のような対応が必要だと述べられています。
・作業主任者の専任
・蒸気の発散源対策
・作業環境測定
・特殊健康診断
これらに基づき、局所排気設備の設置運用と管理、保護具の使用、作業環境測定、有機溶剤健康診断受診、有機溶剤主任者の設定等について当社の対応不備や不十分さを指摘されました。
指摘に対する対応に奔走
ノンスチレン製品研究開発エリア
指摘に対応するため、当社としては様々な対応を行いました。保護具の使用や暴露時間の抑制を中心としたスチレン含有のマトリックス樹脂使用手順の見直し、スチレンの拡散防止と局所排気を目的とした作業現場レイアウトの変更等がその一例です。
また、現場の区画整理を行い、スチレン含有のマトリックス樹脂を使うエリアとそうでないエリアを分けました。合わせてスチレンが含有されていない、いわゆるノンスチレンタイプのマトリックス樹脂の採用に向け、成形加工トライアルや基本物性取得等の技術評価も当社のR&Dセンターで開始しています。これを期に、特別有機溶剤をそもそも使わないという選択肢についても検討を継続したいと考えています。
最後に
当社も特別有機溶剤に対する対策、対応は道半ばです。しかし、試行錯誤を通じて多くの事を学んだことも事実です。
今後は当社の経験を、他のFRP関連企業の対策への支援として貢献することを考えていきたいと思います。