塩酸貯槽の危機~【FRPエンジニアによるコラム】より
2022年8月26日から27日朝にかけて、
AGC株式会社鹿島工場において、
貯蔵していた塩酸が漏洩し、
その一部が海水に流出するという事故が発生しました。
塩酸タンクの補修を行っている当社にとっても大変衝撃的な事故でした。
※参照ページ
発表によると塩酸(濃度35%) 約1,228トン(当該タンクに貯蔵していた全量)が、
一部の工場敷地外への流出が始まったために 作業人員を増強し、
漏洩防止・中和の作業を継続するとともに、
海域へ流出する塩酸濃度を希釈するため、
放水を実施して全ての工場敷地境界地点の塩酸濃度が、基準値である1ppm以下であることを確認したとの事です。
なぜこのような事態に陥ったかは、検証がなされていくと思います。
今回の事故はあまりにも大きいことであるため、
どれほどの影響が出るのかについては正直現状では理解できませんが、
私なりの当該事故に対する考えを述べてみたいと思います。
タンク自体の構造は外側が鋼鉄製で内面に何らかのライニング等が施されていると考えられます。
問題は2点あり、
「内面の塩酸による腐食」と「外面の塩害による腐食」だと思います。
主な腐食原因は貯蔵薬液であった塩酸による内面からの腐食ですが、
今回事故のあったタンクが海沿いということからも、塩害による外面の腐食も進行していたものと推測します。
やはりこのような大規模な事故を未然に防ぐには日々の保守点検による、
腐食の初期状況の発見と適切な補修が不可欠ですが、
コストや効率だけを重視することで基本を疎かにしている工場の方が多いのが現実だと感じています。
当社がお付き合いのある某化学メーカーでは、
700リットルの塩酸タンクを廃棄する際にもしっかりと中和洗浄を行うほど徹底している企業もあります。
※参照記事
このような危機管理が大事故を防ぐために重要だと改めて感じます。
今回のことはコスト低減や効率化だけを重視することによってもたらされる結果が、
どれほど大きな影響をもたらすかを示した一例であると感じます。
塩酸濃度35%がどれほどの薬品なのかをあらためて再確認する時がきたようです。