株式会社 FRPカジ メールマガジン
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2024年10月2日
第四十二回:FRP製品の真実~塩酸使用工場劣化のメカニズム
<目次> ━━━━━━━━━━━━━━━━
・FRP製品の真実~塩酸使用工場劣化のメカニズム
前回メルマガでは塩酸使用工場での劣化注意箇所と劣化の要因についてご紹介しました。
今回は塩酸使用工場劣化のメカニズムとして、先日公開した技術レポート「JIS K 5600-6-1によるFRP耐食塗料とフッ素塗料の耐薬品性比較評価」技術資料_ENG-REPORT-021の内容を元に述べます。
塩酸使用工場での劣化要因は前号で述べている通り、
塩酸そのものに加え、そこから発生する気体の塩化水素です。
これらによって塩酸を保管するタンク本体に加え、
その周辺の付帯設備が腐食します。
そして腐食を防ぐため、これらの構造物には耐食塗装が施されています。
耐食塗装自体は耐腐食性を有していますが、
最大の問題は
「浸透」
という現象です。
これが劣化を進行させる“メカニズム”となります。
この「浸透」という現象を再現するため技術レポート内では、
SPCC厚み0.7mmを母材として、
FRP耐食塗装試験片とフッ素塗装試験片を濃度36wt%の濃塩酸に半浸漬し、
塗料に加え、母材への影響を評価しました。
〈半浸漬を採用した理由〉
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36wt%濃塩酸の蒸気圧は40℃で322mmHg 、同温度の水の蒸気圧が64.4mmHg であることを踏まえると濃塩酸は高い揮発性を示すことがわかる。
そして実際の現場において、濃塩酸より発生する塩酸ガスによる腐食が問題となることが多い。
一例として濃塩酸を保管するFRP製薬液タンクでは、
接液面ではなく塩酸ガスにさらされる天井部の腐食が問題となることも多い。
濃塩酸を長期保管していたFRP製タンクのFT-IR(赤外分光法)などの分析結果から、
当該ガスによる劣化は深部まで浸透することが学術界で示されていることから、
濃塩酸を保管する構造物の劣化診断では天井部の診断を重点的に行う 。
————-
以上のような技術的背景を踏まえ、
揮発性の高い36wt%濃塩酸については完全浸漬ではなく半浸漬で耐薬品性評価を行うことで、
濃塩酸水溶液、塩酸ガスにそれぞれ暴露される浸漬部と非浸漬部で腐食状態に差異が生じるかを確認しました。
言い換えれば、腐食進行のメカニズムである「浸透」について、
その挙動が異なると考えられる液体(塩酸)と気体(塩化水素)で、
腐食現象の進行度合いが異なるかを評価しています。
〈試験結果〉
FRP耐食塗装試験片では全領域について腐食が認められなかった一方、
フッ素塗装試験片では浸漬部が非浸漬部より先に、
腐食に伴う塗膜膨張が生じたことが明らかとなりました。
つまり、浸漬部と非浸漬部で腐食の様子が異なることが結果で裏付けられたのです。
〈今回得られた半含浸の耐薬品性評価結果解釈の注意点〉
ただし、この結果のみからではすべての耐薬品性評価において、
完全浸漬の方が腐食に対して厳しい評価とは判断できず、
半浸漬での耐薬品性評価で未浸漬領域の方が先に腐食する塗料などの材料が存在する可能性も考えられます。
濃塩酸に限らず、揮発性溶液に対する耐薬品性は半含浸で評価することが妥当であり、
また蒸気圧の低い薬液であっても蒸散現象が生じる以上、
半含浸での評価実施を検討する必要があります。
〈早い段階から腐食による外観変化を示したフッ素塗装試験片〉
追加の情報として、浸漬試験では24時間から72時間行いましたが、
FRP耐食塗装試験片の比較対象であるフッ素塗装試験片では試験開始後5時間程度で塗膜より塩酸の浸透が始まって塩酸と母材である鉄の接触が起こり、
結果として塗膜と母材の間に水素が発生して膨れが出ました。
このような現象は一般の方でもご存知の沿岸部で鉄が錆びる、
または薬品を扱う工場で作業の際に工具類が1日で錆びるなどと似たような現象です。
これらの現象は金属(鉄)の酸化反応によるものです。
今号では塩酸使用工場劣化のメカニズムとして浸透が問題となることについて、
当社の技術レポートの耐薬品性評価結果を用いながらご紹介しました。
さらに詳細をご覧なりたい方は、当社HPの原文をご一読いただけると幸いです。
次号からは上記問題点の解決に向けての解説として、
当社発行の技術レポート「JIS K 5600-6-1によるFRP耐食塗料とフッ素塗料の耐薬品性比較評価」技術資料_ENG-REPORT-021での内容も交えて詳しく述べていきます。
FRPを取り扱っている方や今後取り扱いたい方にとっての一助となれば幸いです。