株式会社 FRPカジ メールマガジン
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2025年9月1日
第五十三回:ビス系ビニルエステルの硬化不良発生
<目次> ━━━━━━━━━━━━━━━━
・FRP製品の真実~現地施工で見られるビス系ビニルエステルの硬化不良発生
前回のメルマガでは一般工業製品(一般成形品含む)と航空機製品の違いを踏まえた当社の挑戦として、
新たなFRP業界文化の醸成に向けてFRPカジでは何ができるのか、
についてご紹介しました。
今回は耐食製品には欠かせない、ビスフェノール系ビニルエステル樹脂を現地施工で使用する際に起こり得る硬化不良について述べてみたいと思います。
【熱硬化性樹脂をマトリックスとしたFRPの硬化不良は関心が高いテーマの一つ】
3年以上前の第14回から17回の4回に渡り、
「不飽和ポリエステルの硬化不良発生」についてご紹介しました。
その際に大変反響があり、
関連しているWEB公開中の「不飽和ポリエステル向け硬化剤の硬化不良発生とその対応」は、12,000回近く閲覧されています。
このように耐食FRP製品や現地施工工事に携わる方にとって、
関心の高いものの一つが硬化不良であることが示唆されていると思います。
前出の不飽和ポリエステルに関するコラムでは、
硬化剤の扱いによる硬化不良を深堀りしました。
今回はその対象をビスフェノール系ビニルエステル樹脂とし、
初歩的な硬化不良要因について、
「現地施工で起こりうる実情」
に重点を置きながら複数回に分けて述べていきます。
ビスフェノール系ビニルエステル樹脂の硬化不良原因は、
その硬化メカニズムはどちらもラジカル重合が基本となるため不飽和ポリエステルと重複する部分もありますが、
当該樹脂を用いる耐腐食性が求められる過酷な施工環境での実例を盛り込むことで、
より現場に近い目線で硬化不良の原因について触れられればと思っています。
【現地施工におけるビスフェノール系ビニルエステル樹脂硬化不良の初歩的要因】
現地施工において、ビスフェノール系ビニルエステル樹脂硬化不良の初歩的要因として、
以下の6点が挙げられます。
‐硬化剤添加量過不足
‐促進剤添加量過不足(3液性の場合)
‐硬化剤添加後の撹拌不足
‐強化材(チョップドストランドマット等)が水等を吸収している
‐積層下地やライニング下地の水滴等
‐樹脂塗布用の刷毛・ローラー類に水やアセトンが除去されていない
現場施工での状況も踏まえながら、それぞれについて順次解説します。
〈硬化剤添加量過不足〉
まずは硬化剤添加量過不足について述べます。
硬化剤の添加量は、各樹脂メーカーが最適量を気温と硬化時間の関係をデータとして公開しています。
そのデータをもとに製造会社は気温と硬化時間を考慮して、
添加量を決定します。
教科書通りに添加して撹拌すれば硬化不良はありませんが、
大型製品や広い範囲の現地施工では何度かに分けて時間をずらしながら行うため、
マトリックス樹脂に硬化剤を複数回添加する状況が生じることも多く、
結果として硬化不良のリスクは上がります。
計量器に容器を置き、マトリックス樹脂を注ぎ、
重量を確認して、規定の硬化剤を添加するという一連工程は現地施工ではすべて手作業のため人的ミス回避は絶対とは言えず、
それによって生じたわずかな添加量差異の蓄積が硬化不良の要因となります。
〈硬化剤添加量過不足に関し現地施工で生じる事象例〉
これは私の経験を踏まえての事例です。
通常マトリックス樹脂に硬化剤を添加する場合、
マトリックス樹脂に対して%で指示するかと思います。
例えば、ここで作業を進めながら樹脂の量がキリの悪い2.3キロとして、
硬化剤添加量を1.2%でと伝えたとしたらいかがでしょうか。
計算ミスや意図しない数値の丸め方により適切な硬化剤添加量との差が生じやすくなりと思います。
ビスフェノール系ビニルエステル樹脂を用いるような耐食製品の補修や改修を主とした現地施工は、
今のような酷暑による高温に限らず、揮発性の薬剤や薬液が共存する過酷な環境であることは珍しいことではありません。
上記のような環境は前述の計算ミスを助長する十分な要素となりうるのです。
このように現地施工では樹脂メーカーが考えているような理想的な環境で作業が進められるとは限らず、
硬化剤を添加して、撹拌するまでには様々な悪条件が重なることもあり、時に当たり前のことを当たり前に行うことも簡単なことではありません。
今号ではビスフェノール系ビニルエステルの硬化不良の初歩的要因として、硬化剤添加量過不足について、ご説明させていただきました。
次号では硬化不良の初歩的要因として、促進剤添加量過不足(3液性の場合)についてご紹介します。
FRPを取り扱っている方や今後取り扱いたい方にとっての一助となれば幸いです。