メールマガジン / 第63回
2026年7月1日
第六十三回:FRP製品の真実
FRP製耐食機器劣化損傷判定への新たな取組 ~劣化診断に適用する技術データ取得と劣化予測への活用~
前号のメルマガでは、タンク本体だけでなく、液面部、気相部、配管、継手など、部位によってなぜ見るべき点が変わるのかについて紹介しました。
薬液の違いによって劣化の見え方が変わり、さらに部位によって進行の仕方も変わることがお分かりになったと思います。
はじめに
過去数回にわたり、劣化診断の手法や見るべきポイントなどを解説してきました。
そして劣化診断の最も重要なコンセプトである、
「FRP製耐食機器をより安全に、そしてより長く使うために必要かつ適切な情報を提供する」
を実現できる位置まで本技術を引き上げるには、“劣化予測”という概念が必要となります。
今号では当社の劣化に関する取り組みを、当該予測に用いるデータ取得も織り交ぜながらご紹介したいと思います。
【当社独自の劣化予測】
“当社独自”の劣化予測というと特別な内容に聞えるかもしれません。
しかしながら当社の劣化予測で独自性が出ていると認識しているのは、
「徹底した実測データの蓄積」
にあります。
参照文献や学術論文など、劣化予測に使用できる参考データは複数存在します。
場合によってはWeb検索で得られる情報や、生成AIが提供するものにも役立つものがあるかもしれません。
当社はこれらの情報を全否定する必要はないと認識していますが、鵜呑みにすることは明らかに違うと考えています。
自分たちで獲得したデータをベースに後追いで計算できるものでなければ、顧客に対して自信をもって劣化予測の結果を伝えることはできないからです。
FRPは材料構成はもちろん、含浸させる樹脂目付、積層枚数、硬化環境といった、数えきれない不確定のパラメータにより材料物性が大きく変動します。
そのような材料を取り扱うのに、簡単に手に入る情報に依存して劣化予測をするのはあまりにも危険なのです。
当社ではこのような概況を鑑み、時間がかかっても、非効率であっても、
「実際に自分たちで取得したデータ」
のみを信じ、顧客が求める信頼性の高い劣化予想を真摯な姿勢で行うことを徹底しています。
言うは易く行うは難しです。凡事徹底とも言えます。
この徹底した実データへのこだわりこそが他社との違いであり、当社劣化予測最大の特徴であり、“当社独自”といえる根拠であると考えます。
以下では当社の劣化予測の取り組み例を、2つほどご紹介いたします。
【バーコル硬度計を用いた劣化予測】
バーコル硬度計は、当社が長年にわたりFRP製耐食機器を含む様々なFRP構造体の劣化状態の定量指標による把握を目指してデータを蓄積してきたものになります。
バーコル硬度のデータ取得においては、使用済みの塩酸貯槽や苛性ソーダ貯槽などから切り出したFRP片、あるいは現場で表層を少しずつ削りながら下層の硬度を確認することで、バーコル硬度計の先端針では届かない層の検査を行うという考え方を採用しています。
これを行う理由は、
- 表面の硬度のみで更新と決めることの妥当性検証
- 新規更新ではなく改修/補修を行う判断指標となる劣化厚み範囲のデータ取得
- 補修/改修の可否判断に必要な切削深度指標の構築
にあります。
バーコル硬度はその計測原理故、“局所的な評価”になります。
押し付けた場所の直下での強化繊維有無や構造物の形状など、硬度数値を変動させる要因は複数存在しています。
結果として発生するばらつきをどう扱うかは技術的な課題であり、当社でも試行錯誤をしている最中です。
バーコル硬度による劣化有無の知見は当社長年の蓄積による経験則による閾値は存在しますが、その妥当性を担保するため客観的な手法に基づく追加評価が不可欠と考えています。
この取り組みの一環として、同じ構造物の同等地点を時間をおいて計測することで硬度変化を把握することも検討しています。
さらに切削深度と硬度の相関について、その関係性を視覚化によって把握することを目指しています。
これらの取り組みによって得られたばらつき、経時に伴う数値変動、そして深度との相関を把握するために積極活用している“客観的手法”が“統計学”です。
ここでもブラックボックスになりがちなソフトやアプリを使わず、最後は手計算できる古典理論をベースに、検定や回帰分析を行う体制を整えていく予定です。
現時点ではコンセプト検証段階ではありますが、将来的には現場での客観的判断指標のひとつになり得ると考えています。
さらにデータが蓄積してくれば、バーコル硬度のばらつきを考慮した回帰分析により、劣化予測も可能になると期待し、現在も開発を進めています。
【2年以上にわたる吸水試験実測データに基づく劣化予測】
劣化予測に重要なデータの一つが“拡散速度”の理解です。
FRP製耐食機器の壁面に内容液がどの程度のスピードで浸透するかを示すパラメータです。
例えばFRP製耐食機器を当社が補修し、どのくらいの期間にわたり補修位置が健全な状態で維持できるかを理解するには、拡散速度が極めて重要な指標となります。
本データがあれば補修個所がどのくらいの期間その機能を維持し、また次回の劣化診断をいつ頃行うのが妥当かを、定量的指標に基づき決定することが可能となります。
また、当社が関与せずに製作されたFRP製耐食機器であっても、その運用期間が分かれば補修が必要か否かの判断の一助になるデータを提供することも視野に入っています。
当社は併設するR&Dセンターで、2年以上にわたり自社製作のFRPを使った浸水試験を継続実施することで“実測データ”を積み上げ、拡散速度を概ね理解できる段階に来ました。
外部情報に依存せず、自社で地道に行ってきたためデータの信頼性は十分に確保できています。
今後、当社の劣化診断の新機能として実装していく予定です。
今号では、劣化診断に適用する技術データ取得と劣化予測への活用についてご紹介しました。
次号メルマガでは劣化診断への非破壊検査技術の導入についてご紹介したいと思います。
FRPを取り扱っている方や今後取り扱いたい方にとっての一助となれば幸いです。
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