FRP製塩酸貯蔵タンクに関する改修/補修事業ページ開設のお知らせ
※ 新たに開設した「FRP製塩酸貯蔵タンクの改修/補修」のページについてはこちらをご覧ください。
※ FRP製塩酸貯蔵タンクのリリースについてはこちらをご覧ください。
FRP製貯蔵タンクの従来劣化診断と貯蔵液が塩酸の場合の課題
当社では、FRP製の薬液貯蔵タンクの劣化診断を行っており、基本的には以下のような工程で進めます。
① 内面、外面を目視検査
‐割れ(クラック)、ひび割れ、剥離等の有無確認
② 膜厚検査(設計図面と比較)
③ 硬度検査(①、②で劣化や損傷が認められた場合)
④ ブラケット交換検査(耐震補強)
‐劣化具合の確認:既存ブラケットへの目視・接触(手で触れてオーバーレイ部の浮きなどを確認)
– 数量、形状といった設計上の問題の確認等
⑤ 劣化診断の結果を記載した、検査成績書の作成と提出
⑥ 劣化や腐食が進行している箇所について、補修や内面ライニング等実施、または部品交換
⑦ 施工結果を記載した、検査成績書の作成と提出
上記のような劣化診断は基本中の基本として必ず行いますが、
内容液により劣化診断もアプローチを変える必要があります。
FRP製円筒槽に関する事故の報告は複数ありますが、
「内容液が塩酸の場合、人が天井部に乗ったことによる円筒槽天井部崩壊が本事故の主原因」
という共通した特徴があります。円筒槽内の内容液が塩酸の場合に見られるものです。
このような崩壊の特徴があるにもかかわらず、通常は劣化診断において側板・底板の異常がなければ接液面でない天板部は見逃されているのが現状です。
当社の技術者の中には耐蝕FRPタンクに関連する業務経験が30年を超えるものもいますが、
「天板部崩壊の事故は毎回腑に落ちない事故で、いくら材料選定を間違えていたとしても崩壊までの劣化は考えられない。」
という疑問を持ち続けていました。
しかしながら業界全体でいうと「設計厚みや製作時の厚み薄により強度が担保されないもの」
という考えのもと、事故防止を目的に天井部を含めた膜厚の増加や膜厚検査により製作時の瑕疵を抑制することが、設計者の一般的な対応でした。
FRP製塩酸貯蔵タンク劣化メカニズム
このような中、興味深い論文が東京工業大学と日本大学の研究者の方から発表されました。
「FRP 製塩酸貯蔵用タンクの腐食事故解析」という題目のこの論文には興味深いことが書かれています。
要点は以下の通りです。
・35wt%塩酸貯蔵用の槽において、設置後10年で塩酸と接している下部側面部に比べ、上部の方が槽に用いられているFRPの強度低下の度合いが大きい。
→ FRP強度低下に起因する因子は塩酸溶液よりも塩酸蒸気の可能性が高い。
・槽に用いられていたFRPのEDS分析(エネルギー分散型X線分析)により、塩酸由来のCl浸透が側面で約3mmに対し、天井部では同約5mmに達していた。また、天井部ではガラスの成分であるCa元素が殆ど確認できなかった。
→塩酸蒸気により、FRPへの塩酸の浸透が確認された中で、天井部でより浸透が進行しており、当該箇所ではガラス繊維のCa成分の溶出が疑われた。
本論文では、FRP製塩酸貯蔵タンクの天井部が塩酸蒸気にさらされることで塩酸が浸透し、その結果ガラス繊維成分のうちCaが溶出したことで、繊維と樹脂の界面接着性が失われたと書かれています。
FRPにおいて強化繊維とマトリックス樹脂の界面接着が失われるのは、複合材料としての機能を失うことと同等であるため、結果としてFRPが材料としての強度特性を失い、円筒槽天井部崩壊につながったものと考えられます。
このような学術的な結果も踏まえ、
「劣化診断も大きく見直しを図るべきである」
というのが当社の考えです。
そこで、当社では「補修/改修」事業のうち、貯蔵薬品(内用液)が塩酸の円筒槽について、
という名称で新たにページを開設しました。
作業者の安全を確保しながら、塩酸蒸気で劣化が進行していると考えられる「液面よりも上部の天井部」を中心とした劣化診断に重点を置いています。
詳細については、「FRP製塩酸貯蔵タンクの改修/補修」のページをご覧ください。