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FRP製品を笑顔と共に

第十回:FRP製品の真実~塩酸貯槽の危機 その1

株式会社 FRPカジ メールマガジン

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┏┏┏┏ ハンドレイアップGFRPの真実

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2022年2月1日

 

第十回: FRP製品の真実~塩酸貯槽の危機 その1

 

 

<目次> ━━━━━━━━━━━━━━━━

 

・FRP製品の真実~塩酸貯槽劣化のメカニズム概論

 

 

 

<FRP製品の真実~塩酸貯槽劣化のメカニズム概論> ━━━━━━━━━

 

前回のメルマガではマンション貯水槽の危機について、

貯水槽に関する問題概要と人身事故につながらないための劣化診断の要点と対策案、

並びに酸やアルカリを貯蔵する耐食タンクとの違いについてご紹介しました。

 

 

今回のメルマガでは以前よりHPにて公開しているFRP製塩酸貯槽について、

貯水槽同様に問題概要と人身事故につながらないための劣化診断の要点と対策案の前情報として、

FRP製塩酸貯槽の劣化のメカニズムに関する概論をご紹介します。

 

 

私は前進のFRP製造企業等含め30年以上前よりFRP製塩酸貯槽製造に携わってきましたが、

思い起こすと90年代半ば頃よりFRP製円筒型タンクの天井が崩壊して作業員が落下した事故や突然タンク側面が崩壊したなど耳にすることはありました。

 

その当時より率直に

 

「設計ミスや製造ミスだろう」

 

と安易に考えていましたが、数年前にとある研究論文を目にして衝撃を受けた事を昨日の様に感じます。

 

論文は東京工業大学と日本大学の研究者の方から発表されていたもので、

 

「FRP 製塩酸貯蔵用タンクの腐食事故解析」という題目です。

 

https://bit.ly/3nPX0rT

 

要点として

 

・35wt%塩酸貯蔵用の槽において、設置後10年で塩酸と接している下部側面部に比べ、

上部の方が槽に用いられているFRPの強度低下の度合いが大きい。

 

→ FRP強度低下に起因する因子は塩酸溶液よりも塩酸蒸気の可能性が高い。

 

 

・槽に用いられていたFRPのEDS分析(エネルギー分散型X線分析)により、

塩酸由来のCl浸透が側面で約3mmに対し、天井部では同約5mmに達していた。

また、天井部ではガラスの成分であるCa元素が殆ど確認できなかった。

 

→塩酸蒸気により、FRPへの塩酸の浸透が確認された中で、天井部でより浸透が進行しており、

当該箇所ではガラス繊維のCa成分の溶出が疑われた。

 

 

本論文では、FRP製塩酸貯蔵タンクの天井部が塩酸蒸気にさらされることで塩酸が浸透し、

その結果ガラス繊維成分のうちCaが溶出したことで、繊維と樹脂の界面接着性が失われたと書かれています。

 

FRPにおいて強化繊維とマトリックス樹脂の界面接着が失われるのは、

複合材料としての機能を失うことと同等であるため、

結果としてFRPが材料としての強度特性を失い、

円筒槽天井部崩壊につながったものと考えられます。

 

私は本論文を読み衝撃は受けましたが、

実際に自分の目で見て、手で触って、膜厚や硬度を測ってみないと腑に落ちない点があったのは事実です。、

しかし、この数年塩酸貯槽の補修工事のたびに劣化診断を行ったことで、

この論文の内容に対する疑いが消え、確信に変わりました。

 

「これは世界中のFRP製塩酸貯槽により人身事故が絶えないのでは」

 

厚生労働省の発表によると、FRP製塩酸貯蔵タンクに関連するものだけで、平成14年から23年の10年間で5名死亡の労働災害 が認知されており、これらの死亡事例はすべて「円筒槽天井部崩壊」によるとのこと。

 

当社ではこの事実を国内外に発信しなければいけないと判断し、

神奈川新聞やフランスパリで開催されている世界最大の複合材料業界の展示会JEC Worldの主催団体である、

JEC Groupが刊行する「JEC COMPOSITES MAGAZINE 137」に、

「FRP製塩酸貯蔵タンク改修/補修事業」に関して寄稿を行いました。

 

今回の内容が日本に限らず、世界的に関心の高まっているテーマであることを裏付ける一事例です。

 

「当社のFRP製塩酸貯蔵タンク改修/補修事業が神奈川新聞にて掲載されました」

https://bit.ly/3tPpRjB

 

 

「JECコンポジット・マガジンにて当社のFRP製塩酸貯蔵タンク改修/補修事業が

掲載されました」

https://bit.ly/3IiQKAG

 

 

 

以上のことから、FRP製塩酸貯蔵タンクの保守点検においては、

FRPという材料の特性に加え、当該タンクがどのような劣化が起こる可能性があるのかということに関する知見が必要不可欠です。

 

当社では上述のFRP製塩酸貯蔵タンクの劣化の傾向を考慮しながら、

FRP製品設計、製造で30年以上の経験を有する当社技術者の専門的かつ客観的知見を踏まえ、

コストや工期の観点から課題のある新規更新ではなく、

今あるものをできる限り生かしながら設備の長寿命化を目指すFRP製塩酸貯蔵タンクの「補修/改修」に対応しています。

 

 

今回のメルマガではFRP製塩酸貯槽の劣化のメカニズムについて述べました。

次回のメルマガでは、30年以上使用されたFRP製塩酸貯槽がどのような劣化を示すのか、

ということについて実際の現場で起こっている事実についてお伝えしたいと思います。

 

 

FRPを取り扱っている方や今後取り扱いたい方にとっての一助となれば幸いです。