株式会社 FRPカジ メールマガジン
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2022年8月1日
第十六回:FRP製品の真実~不飽和ポリエステルの硬化不良発生の仮説立案と
考察による硬化不良の原因の推測
<目次> ━━━━━━━━━━━━━━━━
・FRP製品の真実~ 不飽和ポリエステルの硬化不良発生の仮説立案と考察による硬化不良の原因の推測
<FRP製品の真実~不飽和ポリエステルの硬化不良発生の仮説立案と考察による硬化不良の原因の推測>
前回メルマガでは不飽和ポリエステルの硬化不良発生時の初期対応に触れましたが、
今回のメルマガでは不飽和ポリエステルの硬化不良発生の仮説立案と考察による硬化不良の原因の推測についてご紹介します。
現場における作業者の観点も踏まえ、発生した原因の推測を行いました。可能性として挙げられたのは以下のものです。
‐マトリックス樹脂と硬化剤の攪拌不足
‐各マトリックス樹脂に対しての硬化剤量の間違い
‐硬化剤が古い(長期保管による変質)
<撹拌不足や添加量の間違いの可能性について>
マトリックス樹脂と硬化剤の攪拌不足、各マトリックス樹脂に対しての硬化剤量の間違いといったことについては、
実際に条件を変更する、また実際の作業手順を細かく確認する、
といった検証を行いましたが、マトリックス樹脂の硬化不良の主原因ではないことがわかりました。
<硬化剤の失活の可能性について>
マトリックス樹脂、硬化剤、促進剤の変質による失活可能性についても検証を行いました。
その結果、これらの材料を新しいものに変更することで硬化不良の発生が起こらなくなりました。
これらの仮説に対する検証結果から、
硬化不良の原因の一つして最も活性の高い硬化剤パーメックNの失活を疑いました。
パーメックNはメチルエチルケトンパーオキサイドという有機過酸化物を主成分とし、連鎖反応による爆発等を避けるため、
不活溶媒であるフタル酸ジメチルによって希釈されているものになります。
メチルエチルケトンパーオキサイドは、結合力が最も弱い酸素原子間で発生するラジカルと呼ばれる活性点を起点として、
希釈剤であるスチレンや不飽和ポリエステルのビニル基を攻撃して発生するラジカルによって連鎖的に分子が結合していく「ラジカル重合」というメカニズムで硬化が進行します。
このラジカル発生は金属塩、アミン、強塩基、強酸等の存在下で促進されることが知られています。
一般の工程においてナフテン酸コバルトを促進剤(触媒)として添加するのも、ラジカル発生を促進させることがその目的にあります。
しかし活性の高いメチルエチルケトンパーオキサイドのような有機過酸化物には、注意すべき性質があります。
それが、
「意図しないラジカル発生と失活」
です。
意図しないラジカル発生の外的要因として最も大きいものが「温度」です。
パーメックNについても安全管理温度として「SADT」というものが指定されています。
これは、50L程度の容量に保管された有機過酸化物が、7日以内に6℃以上の発熱現象を示す温度のことで、ラジカルが発生し、重合反応や停止反応が起こる際に熱が発生することを利用しています。
パーメックNのSADTは65℃と高めではありますが(出展元:パーメックデータシート)、猛暑だった(2020年当時)夏の保管中に、分解によるラジカル発生が起こっていた可能性は否定できません。
また理化学辞典によると、過酸化物の一般的な性質として、「過酸化物は水や酸の存在下で分解し、水酸化物と過酸化水素を生成する」と書かれていることから、
梅雨時期を経ての高温多湿環境下での保管された、ガラス繊維、マトリックス樹脂、硬化剤等の吸湿による水分が、硬化剤中の有機過酸化物分解の一因となった可能性もあります。
上記のような温度や水分によって発生したラジカルは、ラジカル同士が反応することによって失活する「停止反応」を起こすことが高分子科学の世界では知られており、
当該反応は新しい結合が形成される結合(combination)と、相手のラジカルからHを引き抜く不均一化(disproportionation)に大別されます。
このような停止反応の結果として硬化剤中のラジカル濃度が低下し、硬化不良が引き起こされた可能性が考えられます。
以上のことから、保管中の温度と材料中の水分による有機過酸化物の失活が、今回の硬化不良の主原因ではないかと推測しました。
今回のメルマガではFRP製品の真実~不飽和ポリエステルの硬化不良発生の仮説立案と考察による硬化不良の原因の推測についてご紹介しました。
次号メルマガでは、FRP製品製造の真実~不飽和ポリエステルの硬化不良という問題がおこらないために必要な対応について取り上げたいと思います。
FRPを取り扱っている方や今後取り扱いたい方にとっての一助となれば幸いです。