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第十一回:FRP製品の真実~塩酸貯槽の危機 その2

株式会社 FRPカジ メールマガジン

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┏┏┏┏ ハンドレイアップGFRPの真実

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2022年3月1日

 

第十一回: FRP製品の真実~塩酸貯槽の危機 その2

 

 

<目次> ━━━━━━━━━━━━━━━━

 

・FRP製品の真実~ FRP製塩酸貯槽劣化実例と劣化診断の要点

 

 

 

<FRP製品の真実~FRP製塩酸貯槽劣化実例と劣化診断の要点> ━━━━━━━━━

 

前回のメルマガではFRP製塩酸貯槽の問題概要と人身事故につながらないための劣化診断の要点と対策案の前情報として、

FRP製塩酸貯槽の劣化のメカニズムに関する概論についてご紹介しました。

 

 

今回のメルマガではFRP製塩酸貯槽劣化状況と劣化診断の要点をご紹介します。

 

 

 

〈FRP製塩酸貯槽の劣化状況〉

 

FRP製塩酸貯槽は30年以上前より色々な場面で使用されており、

昭和後期より平成を超えて令和まで使用されている工場が多くあります。

このような30年以上経過したFRP製塩酸貯槽ではどのような劣化状況にあるのかについて、実例をお伝えします。

 

後ほどご紹介するFRP製塩酸貯槽に対しての劣化診断は槽外面が基本となりますが、

天井部の硬度低下以外は槽内から劣化診断を行わないと分かりません。

今回の事例では、

30年以上経過で初めての槽内劣化診断となりました。

 

何度も槽内を洗浄した後、槽内に入った際にまず感じたのは以下の異変です。

 

1.           接液面が茶褐色に変色

2.           接液面に水疱状の膨らみが多数存在

3.           接液面に数多くのクラックを確認

 

これらは他の毒物劇物貯槽と状況が大きく異なっており、

上記で確認されたのは塩酸貯槽固有の現象です。

 

槽内劣化診断ではバーコル硬度30以上が良判定と考えられています。

当該診断を実施した天井内面は10~20と、外面劣化診断の際に同様の数値が示されていたことからも想定通りの値であり、

劣化が進行した状態であることが確認されました。

同様に、上述した異変を感じた接液面のバーコル硬度は最も低いところで15程度と危険なレベルに達しており、

さらに驚いた事に水疱部にバーコル計の針が刺さると塩酸らしき液体が染み出てきました。

そこからは防護眼鏡や防毒マスクを通り抜け我慢できないほどのガスが槽内に充満し、

槽外に退避する必要性があるほどでした。

 

 

〈劣化の進行したFRP製塩酸貯槽内における想像を絶する危険な状況〉

このような厳しい状況にあったFRP塩酸貯槽に対し、お客様の意向でもある

 

「長寿命化」

 

を進めるため、以下のご提案をしました。

 

1.           天井部は新規に鏡板の切り替え

2.           接液面は塩酸が浸透しているであろう層(1~2mm)をケレン

3.           ケレン後に2~3mmFRPライニング

 

ご提案を受け入れていただき実行に移しましたが、作業環境の過酷さは想像を超えていました。

まず、槽内ケレンを開始した直後より水疱より染み出たレベルでない塩酸ガスが充満し、

作業中断を余儀なくされました。

 

この事象の原因は、水疱内の塩酸と浸透している塩酸がケレンにより生じた粉塵と混合した事でした。

 

集塵機、送風機を増やし作業再開となりましたが、

重装備の防護を施しても粉塵が塩酸を含有しているため、

マスクのフィルターに付着した粉塵により呼吸をするごとに苦しくなり、

槽外で待機している者でも耐えられないような厳しい状況となっていました。

 

今回のケースでは塩酸漏洩がない状態でしたが、

偶然数年前に同時期設置の苛性ソーダ貯槽からの漏洩補修工事を行った事で塩酸貯槽も劣化診断を行いたいという要望が、

塩酸の漏洩という大惨事を回避させたと言えます。

 

劣化診断費用を考慮して足踏みする企業が多い中、

今回の企業のように先々の環境問題やコストも視野に入れた長寿命化を目指す事は本当に素晴らしいです。

 

 

 

〈FRP製塩酸貯蔵タンクの劣化診断法〉

 

劣化診断の手順について概要を以下の通りご紹介します。

 

※ 診断、検査は、JIS K7012 ガラス繊維強化プラスチック製耐食貯槽に基づいて行います。

※塩酸以外のタンクは③以降を行います。

 

① 天井部の硬度・膜厚診断(槽設置5年以上経過の場合及び目視・触診等により危険と判断した場合は足場を確保)

 

② 槽運転時液位より上の側板の硬度・膜厚診断

 

③ 内面、外面を目視検査

 

‐割れ(クラック)、ひび割れ、剥離等の有無確認

 

④ 膜厚検査(設計図面と比較)

 

⑤ 硬度検査(③、④で劣化や損傷が認められた場合)

 

⑥ ブラケット交換検査(耐震補強)

 

‐劣化具合の確認:既存ブラケットへの目視・触診(手で触れてオーバーレイ部の浮きなどを確認)

 

‐数量、形状といった設計上の問題の確認等

 

⑦ 劣化診断の結果を記載した、検査成績書の作成と提出

 

⑧ 劣化や腐食が進行している箇所について、補修や内面ライニング等実施 、または部品交換

 

⑨ 施工結果を記載した、検査成績書の作成と提出

 

 

上述した劣化診断を定期的に行う事により人身事故抑制はもちろんですが、

薬液漏洩等の事故後に発生する莫大なコストと比較すれば、

抑制された費用で上記のリスクを抑制できることになります。

事故後に発生するコストとして、

 

‐事故処理による工場稼働停止

‐人身事故の場合の補償

‐漏洩薬剤の洗浄、処理費用

‐当該タンク撤去解体費用

‐新規塩酸貯槽設置

 

などが考えられます。

 

しかし、1年に1回の劣化診断を行うことで劣化箇所の早期発見と補修が可能となり、

上記のリスク低減に加え、設備の長寿命化も実現できることになります。

 

これを機に保全やメンテナンスに係る方々や作業に係る方々の尊い命を守る為にも、

FRP製薬液槽の劣化によって生じる事象の危険性を認識していただけたらと思います。

 

 

 

今回のメルマガではFRP製品の真実~塩酸貯槽の危機 その2という題目で、

FRP製塩酸貯槽劣化状況と劣化診断の要点についてご紹介しました。

 

 

 

次号メルマガでは、FRP製品製造の真実~苛性ソーダ貯槽の危機ということについてについて取り上げたいと思います。

 

 

 

FRPを取り扱っている方や今後取り扱いたい方にとっての一助となれば幸いです。