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第五十六回:現地施工で見られるビス系ビニルエステルの硬化不良発生 ~強化材(チョップドストランドマット等)が水等を吸収している ~

株式会社 FRPカジ メールマガジン

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┏┏┏┏ ハンドレイアップGFRPの真実

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2025年12月4日

 

第五十六回:現地施工で見られるビス系ビニルエステルの硬化不良発生

~強化材(チョップドストランドマット等)が水等を吸収している ~

 

<目次> ━━━━━━━━━━━━━━━━

 

・FRP製品の真実~現地施工で見られるビス系ビニルエステルの硬化不良発生~強化材(チョップドストランドマット等)が水等を吸収している

 

前回のメルマガではビスフェノール系(ビス系)ビニルエステルの硬化不良の初歩的要因として、硬化剤添加後の撹拌不足についてご紹介しました。

 

今回は現地施工時における、硬化剤添加後に強化材(チョップドストランドマット等)に水や溶剤が付着することによる当該硬化不良発生について述べてみたいと思います。

 

 

【現地施工におけるビスフェノール系ビニルエステル樹脂硬化不良の初歩的要因】

 

現地施工において、ビスフェノール系ビニルエステル樹脂硬化不良の初歩的要因として、

以下の6点が挙げられることは既に述べました。

 

‐硬化剤添加量過不足

‐促進剤添加量過不足と手順違い(3液性の場合)

‐硬化剤添加後の撹拌不足

‐強化材(チョップドストランドマット等)が水等を吸収している

‐積層下地やライニング下地の水滴等

‐樹脂塗布用の刷毛・ローラー類に水やアセトンが除去されていない

 

※参照コラム

第五十三回:ビス系ビニルエステルの硬化不良発生

https://x.gd/CQUKH

 

今回は4点目の“強化材(チョップドストランドマット等)が水等を吸収している”ついて解説します。

 

 

【強化材(チョップドストランドマット等の強化繊維)の水や溶剤の付着原因】

 

はじめに強化材(チョップドストランドマット等の強化繊維)が水や溶剤が付着してしまう主な原因について、以下の通り述べます。

 

‐現地作業の場合、強化材の保管場所が簡易的、または開放的な場所が多いため、

雨や湿気の影響を妨げるものが少ない。

 

‐夏場や温度や湿度が高い現場で、強化材移動中や成形中に現場作業者の汗が強化材に付着する。

 

‐成形作業に入る際、マトリックス樹脂を含侵させる成形用ローラー等に洗浄目的で使用したアセトン等の有機溶剤が残留しており、そのまま作業に用いることでこれらの溶剤が強化材に移行する。

 

‐液体や揮発性溶液を保管する薬液タンクや槽といった現場環境において、水や薬液の飛散、または水蒸気やガスの蔓延により、積層前の強化材にこれらの成分が付着する。

 

※着色に使用する顔料や塗料が、強化材に付着する。

 

 

どのケースにおいてもマトリックス樹脂を含浸させる“前”、つまり当該樹脂で被覆されていない強化材に対して水や溶剤の付着が生じていることがわかります。

 

 

【強化材に水や溶剤が付着しているとどうなるのか】

 

成形作業前の段階で強化材に水等が付着しているか否かを肉眼で見分ける事は困難です。

 

強化材への付着有無は、マトリックス樹脂を含侵させた後の“白化”で気付きます。

 

成形作業開始後、水や汗やアセトン等を吸収している箇所にマトリックス樹脂を含浸させると白く変色するのです。

 

白化した箇所は硬化の遅延やゲル化が生じる可能性があるため、部分的にハサミ等で取り除くか、強化材の大きさによってはそれ全体を除去します。

 

強化材に付着した水溶液による硬化反応の遅延やゲル化については、

当社内の実験で再現することが分かっています。

 

※関連技術レポート

ビニルエステル/過酸化物による FRP 硬化への pH の影響

「ビニルエステル/過酸化物によるFRP硬化へのpHの影響」技術資料_ENG-REPORT-020

 

前述したような白化個所の除去を適切に行わずに積層をしてしまうと、

その上層も白化してしまいます。

 

つまり強化材に付着した水等による硬化不良の影響は、層間方向(厚さ方向)にも拡大するのです。

 

層間に白化領域がある場合、外面色がクリア(樹脂色)であれば当該箇所は目立つので、わかった時点ですぐに除去する対応が必要です。

 

 

【強化材に水等を付着させないための当社の取り組み】

 

成型作業開始後に水等の強化材への付着が原因となる本作業のやり直しは、

工期の長期化といった問題につながるため回避するための対策が必須です。

 

ここでは強化材に水等を付着させないための当社の取り組みをご紹介します。

 

‐雨や湿気の影響を受けないように強化材を事前に工場にてビニール等で養生する。

 

‐夏場や温度や湿度が高い現場作業が想定される場合、

作業者の汗の材料への付着を防ぐため極力肌の露出を減らす。

 

‐成形作業に入る前に、成形用ローラー等にアセトン等が残らないよう、何度もローラー等を手で回転させて乾燥をさせる。

 

‐水や薬液の飛散が想定される場合、強化材への飛散液の付着防止、並びに飛散抑制を目的とした現場の養生を徹底する。

 

‐水蒸気やガスが蔓延する環境が作業現場になると想定される場合、事前に少量の材料で成形テストを行い、白化現象発生有無の確認と、発生する場合の対策案を検討の上、後工程の作業手順を決定する。

 

 

【強化材(チョップドストランドマット等)への水等の付着で生じる事象例】

 

私の経験を踏まえての事例をご紹介します。

 

上述した原因の最後に※にて記載した、後から添加または塗布する顔料や塗料が強化材に付着することを述べましたが、

これに関連したこととして、はじめから着色したマトリックス樹脂を使用することがあります。

 

前者の場合は水等同様に取り除くことがですが、

後者はマトリックス樹脂自体が予め着色されているため、

仮に強化材に水等が付着して白化生じたとしても外観からは分かりません。

 

このような場合、白化箇所が層間にあっても外から判別できないため、

できる限り最上層までは“着色させずに”積層を進める必要があります。

 

特に屋上等での防水工事は外観を着色するのが一般的であるため、このような白化を見逃さない細かい配慮が必要となります。

 

GFRPのハンドレイアップによる成形は全て手作業で行うためにミスも必ず出ますが、

事前の準備や現場での判断でリスクを最小限に抑えることを常に意識することが大事だと思います。

 

 

今号ではビスフェノール系ビニルエステルの硬化不良の初歩的要因として、強化材への水や溶剤の付着についてご説明させていただきました。

 

 

次号では硬化不良の初歩的要因として、積層下地やライニング下地の水滴等に起こる要因についてご紹介します。

 

FRPを取り扱っている方や今後取り扱いたい方にとっての一助となれば幸いです。