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FRP製品を笑顔と共に

第五十一回:FRP製品の真実~FRP製品製作での一般工業製品(一般成形品含む)と航空機製品の違い

株式会社 FRPカジ メールマガジン

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┏┏┏┏ ハンドレイアップGFRPの真実

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2025年7月1日

 

第五十一回:FRP製品の真実~FRP製品製作での一般工業製品(一般成形品含む)と航空機製品の違い

 

<目次> ━━━━━━━━━━━━━━━━

 

・FRP製品の真実~FRP製品製作での一般工業製品(一般成形品含む)と航空機製品の違い

 

前回のメルマガではGFRP 理解はじめの一歩として、GFRPとCFRPの違いについてご紹介しました。

 

 

今回はFRP製品製作でのGFRPとCFRPの違いについて、一般工業製品(一般成形品含む)と航空機製品にフューチャーしながら深掘りしますので、ぜひご一読ください。

 

 

FRPカジ並びに私も長年一般工業製品製造側に身を置いてきましたが、

数十年前より違和感がありました。

当時、FRP製耐薬品タンクの“設計”を行う場合に、よく設計者である諸先輩方から教わったのは、

 

「鋼材でまる○○tの厚みなら、FRPならプラス○○tでもつだろう」

 

もしくは、他社の図面を見せられ、

 

「○○社のタンクは○○tだから、もつだろう」

 

上記が定番のやりとりでしたので、会話の相手は設計者ではなくCADオペレーターが正しい言い方だったかもしれません。

 

その後も常に設計に関しては違和感がありましたが、

2017年頃に知り合った航空機業界にてFRPに携わっていた方との会話で、

私は恥ずかしさが込み上げました。

 

それが切っ掛けとなり、

2019年にFRPに関しての定性的な感覚論から、全てを数値で表す定量的なものづくりを行いたいために、研究開発を行うR&Dセンターを開設しました。

 

※株式会社FRPカジ R&Dセンター HP

https://rd.frpkaji.co.jp/

 

 

補足として、

私がFRP業界に飛び込む以前の1960年代から1980年代初頭までは、

数々の論文があることからもFRPに対してかなりの研究がなされていたことは間違いありません。

 

 

【一般工業製品(一般成形品含む)と航空機製品でのものづくりスタート地点の違い】

 

本年2025年5月2日に起きた秋田県秋田市の日本海に面した新屋海浜公園に隣接する風力発電にて発生した風力発電のブレード破損・落下事故の一報を耳にして、

長年にわたり懸念していた一般工業製品と航空機製品のものづくりに対しての違いが鮮明にされた気がしました。

FRPエンジニアによるコラム」にて、

 

「風力発電ブレード落下事故から学ぶ、FRP構造物の見えない劣化のリスクとその対策 」

 

風力発電ブレード落下事故から学ぶ、FRP構造物の見えない劣化のリスクとその対策 【FRPエンジニアによるコラム】より

 

として公開しました。

 

今回の事故で落下したGFRP製ブレードは大型のためブレード1枚は長さ50~70メートル程度、重さも20~30トン程度のものが主流と報道されています。

 

大型風力発電のローターは1分間に10~15回転程度のゆっくりとしたスピードで回っていますが、ブレード先端部は時速250km以上の新幹線並みの速度で3枚のブレードが回転しています。

さらに、回転をスタートする際、並びに回転中のブレードローター側(根本)へはかなりの力が作用することは想像できます。

 

今回の事故もブレードローターの根本付近より破壊していることから、

おそらく航空機設計のような使用時の荷重計算、製品形状、並びに異方性を考慮した材料特性を踏まえた考え方ではなく、

過去の経験と実績に依存した一般工業製品設計の考え方からスタートしたものと思います。

 

GFRP材料を主とした一般工業製品の別例として、

工場に設置してある薬品貯蔵タンクがあります。

このタンクは最大で直径7~8m高さ6~10mで、内容量として300~500立方メートル程度かと思います。

構造材の耐薬品性付与に加え、タンクの自重を抑制するためFRPを使っていますが、

それでもこのサイズだと8トン~12トンとなり、内用液が入る場合は総重量が500トン近くになります。

 

上記のような薬液貯蔵タンクの場合には、大型ですが回転等はせず基礎の上に設置・固定され、

自重と内容液による静的荷重に耐え、安定して薬液を貯蔵することが主たる役割となります。

 

一方、大型ブレードの場合にはタンクよりもはるかに長く重いGFRPが新幹線並みの速度で回転するのですから、薬液貯蔵タンクとは異なる回転体ならではの遠心力をはじめとした動的荷重を考慮した各種設計要件を精査・設定の上、

それらをクリアする必要があります。

 

このように用途を念頭に設計要件を明確化し、それを満たすか否かの評価をすることが大変重要だと考えます。

 

 

【航空機製品の形式証明取得までの流れ】

 

形式証明(部品)には大きく分けて三つあります。

 

1.図面

‐設計要件により決定

 

2.材料規格

‐図面要求を満たす適用材料を選定することにより決定

 

3.工程規格

‐適用材料を用いて図面要求を満たす成型物を安定して製造する工程により決定

 

上記を基に図面に加え、材料や工程の適合性検査に移行して、材料特性データ取得を含めて最終的な部品形式証明を獲得する必要があります。

 

図面は前述の“設計要件”を踏まえた寸法要件、非破壊検査要件、積層構成などが明示されており、

材料規格はその“材料が安定した特性を発現するため”に必要な管理要件や数値基準を含み、

工程規格は図面要件を満たす“製品を安定して製造するため”の最低品質や管理に関する要件が記載されています。

 

設計要件だけでなく、その要件を満ために材料と工程を管理して“安定化させる”という視点が含まれているのがポイントです。

 

 

【一般工業製品の部品形式証明取得までの流れ】

 

材料試験等よりの物性値取得はせずに従来の製品に当てはめた図面作成・材料選定・工程決定となり、

航空機製品と比較した場合に、そもそも形式証明という概念はありません。

 

設計要件不在の状態で、あくまでも過去の実績や用途を念頭に作成された図面と、

形を作ること“だけ”を重要視した材料と工程を選定するのが一般的です。

 

設計要件も不在ですが、加えて安定して作り続けるという視点が欠けているということが分かると思います。

 

 

【一般工業製品(一般成形品含む)と航空機製品の違いを踏まえた当社の挑戦】

 

GFRPを中心とした一般工業製品と、CFRPを中心とした航空機製品では、設計の段階でかなり異なると感じられたと思います。

 

安全性が第一の航空機業界で厳しい型式証明が課せられるのは理解できる一方、

それをそのまま一般工業製品に適用することには無理があるとも感じます。

 

一般工業製品で培われた実績や経験にも価値があるからです。

 

しかしながら航空機製品の型式証明という設計開発の基本姿勢から、

一般工業製品の設計開発に関して取り入れられる、そして取り入れるべき観点があるのも事実です。

 

当社の半世紀以上にわたるGFRPを中心とした一般工業製品の製造経験と、

航空機業界での取り組みの理解を組み合わせ、

これまでよりも、より適切な設計を実現し、より安全な製品を安定して製造する、

新たなFRP業界文化の醸成に挑戦していきたいと思います。

 

 

今号ではFRP製品製作での一般工業製品と航空機製品の違いについて、初心者にも分かりやすくご説明させていただきました。

これからもFRPカジは、FRPという素材の特性を深く理解し、最適なソリューションを皆様にご提案してまいります。

 

 

次号ではGFRPとCFRPの違いについて深堀りしてご紹介します。

 

 

FRPを取り扱っている方や今後取り扱いたい方にとっての一助となれば幸いです。