被災地でも活躍した移動式トイレカーへのFRP適用【FRPエンジニアによるコラム】より
2024年1月1日に発生した能登半島地震により多数の方々が被災し、
断水が続いたことから移動式トイレカーが活躍しました。
被災地でのトイレカー活用については、以下のようにメディアでも紹介されています。
大規模災害の発生後は、適切な衛生施設へのアクセスを確保することが最も重要です。
トイレカーは、快適な設備と移動機能を備えており、この重要なニーズに対応する解決策を提供できる可能性があります。
このコラムでは、トイレカー製作に携わったことのある当社が考える、トイレカーへのFRP適用について製作支援例も踏まえながらお話ししたいと思います。
トイレカーへのFRP適用の動機
当社はガラス繊維と熱硬化性樹脂を組み合わせたGFRP(Glass Fiber Reinforced Plastics)で、様々な成形体を作ること主力事業の一つとしています。
このGFRPを含めたFRPは、軽量で高強度である上、水に強く、また複雑な形状に成形しやすいという特徴があることから、トイレカーの構造材に用いられることがあります。
FRPが用いられるトイレカー関連部品としては、
屋根、壁、便槽、手洗い器、給水タンク、採光窓等があります。
どれも水にさらされる可能性がある、または複雑な形状が求められる部分です。
例えば当社では採光窓にも使用できる、光透過性のあるFRP製サッシの製作も行っております。
トイレカーは車両の上に搭載されるものであるため、軽さも重要です。
強化繊維の基材構成によって変動はありますが、当社で製作するGFRPの密度は概ね1.5g/cm3程度と軽量です。
FRPは強化繊維であるガラス繊維の単位体積含有率にあたるVfによって、密度だけでなく多くの機械特性、物理特性が変化します。
過去には当社で製作したGFRPのVf計測を当社のR&Dセンター主導で調査を行ったこともあります。
・当社R&Dセンターでの評価事例
「50年屋外曝露されたFRPの特性評価」技術資料_ENG-REPORT-015
トイレカーを例にすれば、耐荷重を上げるため高強度、高剛性が必要な床材や便槽に用いるFRPのVfは高めに設定し、天井やパネル等に用いる場合はVfを抑えることで軽くする、といった設計思想がFRP採用時に重要となります。
当社のトイレカー製作支援例
移動式トイレカーと言っても色々なタイプがあり、イベント場に向いているトレーラー式複数設置水洗トイレから工事現場で使用の軽トラックに仮設トイレを積載しただけのものまで幅広いです。
当社では車両とトイレが一体化したトイレカー製作支援のご要望を3年ほど前にいただき、着手した経験があります。
このトイレカーは節水型で1回の使用量が3~5リットル、搭載されている給水タンク容量が100Lのため、満水で20回から30回の利用が可能なタイプでした。
この仕様のトイレカーを被災地で用いる場合、現地で給水と汲み取りがスムーズに行う事が可能か、という点がポイントとなります。
よって給水や汲み取り頻度を減らすため、給水タンクや便槽を設置空間内でどこまで大きくできるのかといった議論が重要です。
このような議論に対し、FRPの成形形状柔軟性は強みと言えます。
トイレカー製作支援の話に戻ります。
基本的にコストをかければほぼ思い通りの物を作ることは可能ですが、コストの制約がFRP採用を困難にしました。
最大の理由はFRPで製作する場合、生産型が必要となることにあります。
型が必要という時点でコスト割れとなります。
当社の感覚として技術的な観点というよりも、コスト的な観点からFRPの採用は想定より難しくなることが多いといえます。
このような状況を踏まえ、当社での試行錯誤の上に辿り着いたのはアルミコンポジット板使用により箱型トラックのような外観にすることでした。
この材質であれば内面にもキレイな壁面が現れ、床材としては水洗いも可能と非常に万能となります。
給排水用タンクはFRP製として設置空間に収まるよう形状を調整のうえで製作し、その他備品は既製品を組み込む形で落ち着きました。
仮に多くのトイレカーを製作するとなれば一つの型で多くの製品を製作するため、上述の型コストの問題が解決できると考えます。
またFRPは長期利用に適した材料であるため、長い目線で見れば基本構造をFRP製とすることも検討の余地ありだと思います。
当社ではFRPを用いた補修事業も展開しており、このような保守と組み合わせることでFRP製の構造物を長く使うことが可能になります。
まとめ
トイレカーへのFRP適用は、今回ご紹介したように技術的な観点というよりもコストがネックとるケースがあります。
しかし、FRPは強化繊維の繊維体積含有率の調整による材料特性調整等の設計自由度が高く、また高い耐久性と補修が可能であることから長期利用が可能であるという強みもあります。
トイレカーを搭載する車両は多種多様であり、またいつどこで必要になるかわかりません。
このような観点も踏まえ、設計自由度と高い耐久性を強みとするFRPが今以上にトイレカーに活用されていくことを期待したいと思います。