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第二十八回:FRP製品の真実~50年前に製作したFRP製品特性評価の 考察とまとめ1

株式会社 FRPカジ メールマガジン

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2023年8月1日

 

第二十八回:FRP製品の真実~50年前に製作したFRP製品特性評価の考察とまとめ1

 

 

<目次> ━━━━━━━━━━━━━━━━

 

・FRP製品の真実~50年前に製作したFRP製品特性評価結の考察とまとめ1

 

 

<FRP製品の真実~50年前に製作したFRP製品特性評価の考察とまとめ1>

 

 

前回までのメルマガではFRP製品の真実として、

約50年間屋外で曝露されたFRP(ガラス繊維/不飽和ポリエステル)に関して、

3回に渡りFRP製品特性評価を開始した背景、FRP製品特性評価法、FRP製品特性評価結果についてご紹介しました。

 

今回と次回のメルマガではFRP製品の真実~50年前に製作したFRP製品特性評価結果について、考察とまとめを2回に分けてご紹介します。

 

 

【考  察】

 

〈長期曝露によるFRP特性変化について〉

 

1. FRP強度/弾性率の変化

 

本評価では約50年間屋外で曝露したFRPが主な対象であります。

本材料の構成詳細について、

強化繊維がガラス繊維でマトリックス樹脂が不飽和ポリエステルであるという以外は不明でした。

 

しかし基本構成が同等であれば強度比較も可能であると考え、

一般的なEガラスを基本としたガラス繊維のマット材を強化繊維、

オルソ系の不飽和ポリエステル樹脂をマトリックス樹脂として成形したFRP材との特性比較を行い、

長期屋外曝露によるFRP特性変化評価を行うこととしました。

 

評価における要点は以下の通りです。

 

・特性比較は引張強度と引張弾性率に対して行う

 

・上記の特性は全体厚みに対し、ゲルコート層やゾラコート層を除くFRP厚みの比率あたり、そして繊維体積含有率Vfあたりで比較する

 

・曝露を行っていないFRPの引張試験結果(n=8)は過去の評価から引用するものとし、FRP厚みとVfは評価に用いた試験片(n=3)を用いた実験によって算出した

 

 

本評価にて曝露未実施のFRP試験片からVfを算出した結果、22.5%でした。

また、長期屋外曝露済、曝露未実施のFRPの厚み比率は、

それぞれ平均値で78.2、95.8%でした。

 

長期屋外曝露されたFRPはゲルコートに加え、

水性ゾラコート塗料の層がゲルコート層の反対面に存在することがFRP厚み比率の異なった背景にあります。

 

これらの結果も踏まえ、引張強度と引張弾性率について、

長期屋外曝露有無による比較結果から、

FRPは長期曝露により引張強度が半分程度に大幅低下する一方、

引張弾性率の低下は2割程度であり、

引張弾性率の低下は屋外曝露を経ても大幅な変化がないことが明らかとなりました。

 

 

引張強度低下は主にマトリックス樹脂の劣化が原因と考えられ、

FT-IRの測定結果によって示唆されている不飽和ポリエステル樹脂の加水分解が、

本推測を支持していると考えられます。

よって、長期耐久性を要求する場合、まずは強度を基軸とした非破壊確率設定を含む構造設計が妥当であると考えられます。

引張り弾性率比較

ただし、今回曝露された環境と異なり、水に加え酸やアルカリに定常的にさらされ、

定荷重が付加されるなどのより過酷な環境下である場合には注意が必要となります。

酸やアルカリは不飽和ポリエステル樹脂の加水分解を促進することが、

その理由となります。

また、荷重がかかり続けることは高分子構造に定常的な負荷を与えることによる分子構造の変化につながり、

それが結果的に劣化の促進につながることが熱酸化劣化挙動の一つとして知られています。よって、今回得られた低下率に関する知見は万能ではなく、

一つの参照値であり、長期曝露による性能変化を理解するためには、

想定される環境を設定の上で曝露させるという手順が不可欠であると考えられます。

 

 

2. FRP硬度の変化

 

また、バーコル硬度についても屋外曝露の有無による比較を行いました。

バーコル硬度比較

どちらも表層がゲルコートの場合で比較しました。

結果として硬度は10程度、未曝露の方が高い領域もある一方、

場所によっては同等の数値(45程度)を示す箇所もあり、

一概に硬度が長期屋外曝露によって変動するかを判断できない結果となりました。

 

この原因としては、長期屋外曝露FRPは厚み方向に対して凹凸のある3D形状を有しており、硬度数値が安定化しなかったことが推測されます。

未曝露のFRPは引張試験片であるため、計測面において平面が形成されています。

 

さらに今回のような屋外曝露では、

FRPが薬液や水分を多く吸収して塑性化して硬度が低下するということも考えにくく、

薬液や水との接液条件下にない屋外曝露の関する劣化判断を硬度基軸で行うのは危険であると考えられます。

 

ただし、上述のような水や酸/アルカリ水溶液に常時接触するFRPでは、

加水分解に加え可塑化による硬度の低下が不可避となるため、

FRPの使用環境によって硬度は劣化判断の一指標となります。

 

 

50年前に製作したFRP製品特性評価の考察として、屋外曝露有無によるFRPの引張強度と引張弾性率、そしてバーコル硬さの変化について述べました。

 

構造設計の基本である弾性率をベースとした考え方は妥当である一方、

長期曝露では強度低下が顕著であるという理解が、

FRPを用いた構造設計では不可欠な考え方だということが明らかとなりました。

 

加えて、FRP劣化診断でも用いられることの多いバーコル硬さですが、常に接液される等、FRPのマトリックス樹脂の可塑化状態が維持できていないと、

長期曝露によるFRP材料特性変動を把握できないという事実を明らかにすることができました。

 

これらの技術知見は当社にとっても大変重要なものです。

 

次号のメルマガでは「層間剥離/表層の亀裂と破壊位置の関係」に関する考察と、全体のまとめについて述べたいと思います。

 

FRPを取り扱っている方や今後取り扱いたい方にとっての一助となれば幸いです。